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2001/10/02 Tue 曇 涼 「ひきこもりを考える」


昨日ごちそうになったI.W.ハーパーがボワワと音を立てて蒸散し漂う室内でウダウダと自宅作業。夕方からは久々にプラスワンへ。本日のプログラムは、精神科医の斎藤環が中心になって開いている『ひきこもりを考える』の第6回目「ひきこもり討論〜ひきこもり系 vs じぶんさがし系〜」です。ゲストは香山リカひろゆきということで、なんか面白そうだなと。

西武に乗ってドンブラコと歌舞伎町へ。開演40分前くらいに到着しましたが、9割方の席は既に埋まっていました。6回も続いているだけあってなかなかの人気イベントのようです。前半90分ほどは2ちゃんねるの話題で「ひろゆきさん、それこそ毎日のように誹謗中傷の書き込みやメールがあると思いますけど、精神的にまいったりしませんか?」「えーそんなのしょせんNetのことじゃないですかー、斎藤さんや香山さんはいちいちそんなの気にしてるんですかー?」と、ひろゆき相変わらずのヘラヘラぶりで素晴らしいです。

「住所や携帯電話の番号とか全部公開されてますけど、危険じゃないですか?」「うーん、電話はあんまり好きじゃないからあんまり出ませんね(笑)、いまいそがしーからとか言ってすぐ切りますし。個人情報は暴かれたときにダメージがないように、あらかじめオープンにしているという感じです」「うーん、そこまでするって相当の覚悟がないとできないと思うんですけど、何がモチベーションになっているのでしょう?」「あめぞうっていう何でもありの掲示板があって僕も好きで使ってたんですけど、それがなくなるってことで、じゃあ自分でやろうという、それだけですよ。最初は僕自身もユーザーとして2ちゃんねるを利用していましたけど、最近はあんまりおもしろくないからほとんど見ていませんね。あのころの情熱はどこへ行ってしまったんだろう(笑)」

「これから2ちゃんねるをこうしていきたいとかありますか?」「よく聞かれるんですけど何にも考えてないです(笑)。僕がどうしたいというよりは、ユーザーがこうしたいというのをくみ上げてちょっとずついじっているだけですから」「よく『ひろゆきはあんなこと言いながら実は莫大な財をなしているんだ』とか書き込まれてますけど(笑)、野望というか、夢みたいなものは何かあります?」「全然ないですねー。働かなくて喰えればいいなーとは思いますけど」

「趣味とかないんですか?」「家でゴロゴロするのが好きですね、仕事とか用事がなければいつまででも寝てますよ。寝て起きてマンガ読んで、腹減ったらメシ喰って寝る(笑)」「でも出かけなきゃいけないときがありますよね。あと、たまには旅行に行くとか……」「仕事で打ち合わせしなきゃいけないときとかありますけど、寝ててよく遅刻しちゃうんですよね(笑)。そうすると向こうから『今日は時間がないからひとまずメールでやりとりしましょう』って連絡が入って、なんだ、じゃあ最初からメールでいいんじゃん! という(笑)。仕事もサーバの関係とかが多いんで、家でできますしね。旅行ってあんまり好きじゃないんで、どうしても人から誘われたら行くかもしれませんけど、相方に旅行行こうよとか言われて『えー、やだー』って言って怒られたりしてますけど(笑)」

「ひろゆきさんは本当に、用がなければ外に出ないという感じなんですね。訴えられて裁判所に行くとか(笑)」「そう、裁判も寝坊して遅れちゃったんですよ。でも結局大丈夫でしたしね。そうか裁判も別に遅れたっていいんじゃーんと気付きました(笑)」「先日は閉鎖騒動もありましたが」「えーと実はそのときビール飲んで寝てたんでよく知らないんですよー(笑)。でもなんだか知らないうちにいろんな人ががんばってくれたみたいで、何とかなっちゃいましたね。サーバ屋さんが遠くから来て話し合いとかは一応したんですけど、話し合いと言ってビール飲んでただけで(笑)」

「結局のところ、2ちゃんねるを主宰していてメリットはあるんですか?」「んー、いいこともあったしそうでないこともあったし、トントンという感じですね」「普通の社会的な生活とかけ離れていて不安ないですか?」「電車乗ったときとか周りの人たち見ても全然楽しそうじゃないじゃないですかー。僕はまぁ楽しいことも楽しくないこともありますけど、みんな『疲れたー、仕事やだー』って言ってなんだか楽しくないことばっかりみたいで、ならやめりゃいいのにと思いますけどね(笑)。仕事でストレスたまるから帰りに飲みに行ってしまうわけで、仕事やめれば飲みにも行かず出費は減る(笑)。学生時代、家賃も払ってひと月5万でも何とか生活できましたから、まぁ何とかなるんじゃないかなー」

という具合で「ひきこもりを考える」というテーマと関係しているのかしていないのか、2ちゃんねるの話題がそのままひろゆきの生活の話題にシフトしていき、新しい前向き(?)なひきこもりのモデルとしてひろゆきはなかなか有効なのではないかという仮説が飛び出したところで休憩時間に入ります。

後半はオーディエンスからの質問タイム。精神科医のお二人への質問で一番分かりやすかった話題は「精神科医の資質として重要なものは何か。医学書の知識だけで、心の痛みやトラウマといったものが経験的に分かっていない精神科医がいるのは問題ではないか」といったもので、答えは「100%善意ではなく、ほんの少し悪意のある人が望ましい」ということでした。どういうことかというと、100%善意な人というか、自分の中の悪意に自覚的でない人は、治療にのめり込んでしまい、自分の治療法を無理に患者に押しつけてしまったりして、患者を置いてけぼりにしてしまうことがままあるという。だから、いいかげんと言っては言い過ぎだが、ちょっとは斜に構えた部分があるというか、そういう人のほうが良いと。

また、精神病を患ったことがあり、心の傷やトラウマを自らの経験として持っている人が「自分の経験を生かしたい」と精神科医を志すのは、動機としては分かりやすいが、先ほどの「善意100%の人」になってしまう危険性があるので、トラウマ経験などがあるより、むしろ患者とはある程度距離をおいて接することのできる人のほうが良いかもしれない、と。一般的なイメージでは、話を何でもやさしく聞いて親身になってくれる人が良い精神科医と思われていることも多いが、そういう医師は最終的に患者のためにならない場合も多いということでした。

10:00を回ってもまだまだ会は続きますが、私はこのあたりでおいとまします。齋藤環氏のトークはこのイベントで少し拝聴した程度でしたが、今日ある程度まとまった時間のトークを聞いてみて、改めてなかなか話し上手で面白い人だという印象を持ちました。適度にマジメで適度に気が抜けてて適度に鋭く適度に曖昧、こういう人を何というのか、ああそうだ「マターリ」だ。まったりじゃなくてよ。


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