現代文化情報論


セイコーエプソン、GPSモバイルコミュニケーター「ロカティオ」を発売

 セイコーエプソン(以下エプソン)は6月9日、GPSモバイルコミュニケーター「ロカティオ」を発表した。ロカティオは、これまでの携帯情報端末型の機器に、GPS・PHS・デジタルカメラを統合した新しい情報端末である。カーナビの測位装置であるGPSを、情報端末の中に本格的に組み込んだものはまだ少ない。

 サイズは79×141×32mm、重量は260g(バッテリー含む)となっている。これまでバラバラだった複数の情報機器が、文字通り「手のひらサイズ」に凝縮されているわけである。

 ロカティオの特徴は、ただ単に多くの機器をコンパクトに一体化したことだけではない。エプソンが提供する情報サービス「i-Point network」を利用することによって、ロカティオの持つGPS機能をフル活用できるようになる。この、ネットワークとGPSとの連携が注目を浴びている。

 週刊アスキー(*1)内「スタパ斎藤の物欲番長 第83回」では、ロカティオのGPS・i-Point network連携機能について詳しく述べている。主な点をあげてみる。

 カーナビの場合、CDやDVDといった大容量のメディアから全国の詳細な地図情報を得られるが、ロカティオに内蔵されている地図情報は大都市部だけである。大都市部以外の詳細な地図情報は、i-Point networkからダウンロードするのである。

 i-Point networkに接続するにはロカティオ内蔵のPHSユニットを使用するので、PHS利用可能圏内にいればどこでも日本全国の詳細な地図をダウンロードして、GPS端末として利用することができるのである。もちろん、自分が現在いる場所以外の地図をダウンロードすることも可能だから、手のひらに納まる日本全国地図として利用することも可能である。

 ただ地図を表示するためだけにi-Point networkに接続するのならあまり利便性の良くないことだが、ネット接続の意味は地図表示だけではない。各種ショップ情報が分かる「デジタルぴあMAP」や、周辺の天気予報、現在地から主要施設までの経路案内、地下鉄路線表示といった各種付加情報を地図と同時に得ることができる。これらの情報は、端末内ではなくネット上にあるので、常に最新の情報を得ることができる。CDを使った地図と最も異なるのはこの点である。

 また、i-Point networkはインターネットプロバイダーを兼ねてもいるので、ロカティオから直接インターネットに接続することが可能である。パソコンからもi-Point networkのアクセスポイントを利用することが可能だし、i-Point networkのコンテンツにはインターネットを経由してパソコンからアクセスすることもできる。

 以上のことが主に説明されている。著者のスタパ斎藤は基本的にこの端末を絶賛しており、その理由は、「地図の情報量がすごい」「これ一台で街歩きが楽しめる」からだという。これまでに、有用なハンディ型のGPSがなかったことが背景になっている。

 ZDNN(*2)では、エプソンのロカティオだけでなく、カシオのGPS腕時計などを合わせて取り上げ、これからは個人向けGPS端末に注目すべきとしている。その背景には、カーナビの売り上げが年間100万台を越えたことがある。

 この「ロカティオ」のセールスポイント、i-Point networkとの連携というのは非常にうまい目の付け所だと私は思う。これまでにもハンディタイプのGPS端末はあったのだが、緯度経度が数値で示されるだけのもので、よほどの専門的用途以外には使う理由のないものだった。大容量の地図情報を持てない携帯端末の弱点を見事に克服したわけである。

 また、カーナビが普及する中あえてハンディタイプのGPSを出すということは、クルマの外で利用することが考えられているのだろう。その場合に必要な情報は、地図そのものよりも各種付加情報であろう。近くにコンビニエンスストアはないか、この駅の周辺に何か観光スポットはないか、など。このような要求にはカーナビでは応えられない。PHSを内蔵している点もまた極めて有利である。

 これからの課題は、エプソン側がどの程度の質・量の付加情報を提供できるかに尽きる。i-Point networkのコンテンツにはパソコンからもアクセスできるとはいえ、基本的にはロカティオのためのコンテンツである。ロカティオユーザーが相当の数に達しない限り、発展途上の段階でサービス終了ということにもなりかねない。それではキャプテンシステムの再来である。

 ネットワークを管理する企業が、管理だけではなくサービスコンテンツの充実にも力を入れなければいけないのは言うまでもない。ただ、これまではコンテンツが少々貧弱でもネットワークがしっかり生きていればそれでよかった。これからは、ネットワーク等のハードウェアはしっかりしていて当たり前、その上でどんなコンテンツを提供できるかが勝負なのである。NTTドコモの「iモード」や、各大手インターネットプロバイダーも同様である。

注:参考資料
*1 スタパ斎藤『物欲番長』「週刊アスキー」1999年8月4日号 96頁
*2 ZDNN http://www.zdnet.co.jp/news/9905/17/epson2.html
    http://www.zdnet.co.jp/news/9905/18/gps.html


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