業務日誌

2003/10/31 Fri 「天下分け目」

仕事が終わって終電で新宿へ。今夜は東京国際ファンタスティック映画祭2003へ遊びに行きます。東京国際映画祭と同時期に開催されるこの通称「東京ファンタ」は、クラスB映画の上映や往年名画復活の企画などエクスペリメンタルな性格の映画祭として今年で19回目を迎え……っていうかすいません、もともとこの映画祭自体に直接の興味はなかったのです。そもそも私は現代人らしくめったに映画館へ足を運ばないので、いわんや映画祭などという催事をや、これまで全く縁がなかったのです。

ところがところが、この映画祭で『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』(内容はいちいち説明しません)が上映されるという情報を2日前に得て、これは何が何でも行かねばなるまいと思いあわてて会社の近くのファミリーマートで前売り券を購入したのでありました。なんといっても会場の映画館は座席数日本最大を誇る新宿ミラノ座、巨大な銀幕にこの作品が上映される機会など、今回を逃せばおそらくこの先人類が滅亡するまでないでしょう。

というわけでミラノ座にやってきたのですが、カウンターでチケットを出すときに机上の座席表を盗み見たところどうも前売りで席が埋まっているのは私の番号から2つとなりのシートくらいまでで、当日券でも入場は余裕だった模様。全席指定の上映なのでよっぽど人が集まるのかと思っていたのですが、入ってみたら広い劇場内は3分の1も埋まっているかどうかという感じで、まぁ映画祭の深夜興行はこんなものなのかと。

高橋利幸氏(44)そして26時20分ごろになってようやく高橋名人登場。上映の前にトークセッションの時間が設けられます。「えーと、いまは大阪とか岡山のほうで、法人担当の営業をしています」「コロコロ(コミック)さんと、このGAME KINGのせいで、僕はだいぶ(本当の自分とは)違うイメージで見られてるんですよ。『いまでもスイカ割れるんですか』とか『まだバイクは止められるんですか』とか。みんなそろそろ気付けよと(笑)」

「今年はマスコミの取材も多いんですけど、シュウォッチ持ってこられて『いま何発打てますか』とか言われて、やってみたら秒間13発くらいでした。これから流れるGAME KINGでは、スタッフがフィルムを240コマ(10秒分)切って数えたんですけど、ピークで172発出てました」

「ネタをばらすと、ゲームのちゃんとしたROMが僕のところに来たのが対戦の3日前だったんですよ。それまでにゼグの場所とかがぽんぽん変わってて。だから3日間でゼグの位置だけはがんばって覚えましたね。ラザロとかデライラとか、攻略法ほんとにこれでいいのかなーというところも多くて、"激突"とかいう割には失敗しまくってた対戦でした(笑)。あとお互い後ろ向きなので、毛利がいま何点取っているとか状況が一切わからなかった。だからもうとにかくやるしかないという気持ちで必死でした。いまやれと言われたら心臓発作で死んでますよ」

ハハハ、確かに映画の中での対戦をよく見てみると、連射スピードや弾のよけ方はさすが名人という感じですが、敵の出てくるところへあらかじめピタリと移動しているか、地上物の破壊順序は効率的か、といった点に注目するとまだまだ熟成されていない様子。それにしても、声に妙に表情や色の感じられる名人のあのしゃべり方はいまでもまったく変わっていませんでした。私はスターソルジャーが発売された1986年当時小学1年生だったので高橋名人世代の中ではほぼ下端にあたり、名人が出ていたテレビ番組などもそれほど熱心には見ていなかったのですが、それでも名人の声を聞くと断片的ながら当時の記憶がよみがえってきて、懐かしい気持ちでいっぱいになります。

営業する高橋名人営業マンらしく、名人は12月に発売される「ハドソン セレクション Vol.4 高橋名人の冒険島」の宣伝をします。しかも劇場のスクリーンを使って。まずは軽くプレイして見せ、その後BGMがファミコンのPSG音源と全く同じになる隠しモードや、おまけとして搭載されているシュウォッチ機能を出したりと、昔のゲーム紹介番組を思わせる紹介の流れ。ただ、シュウォッチは画面を見せるだけで実演してくれなかったのが残念なところです。

そしていよいよGAME KINGの上映です。何度かビデオで観たことがあったので内容は既知のものでしたが、やはり映画館だと迫力が違います。冒頭スイカ割りのシーンでは客席から拍手さえ起こります。さて、画面の大きさもさることながらそれ以上に重要なのが音。意外に低音が太いファミコンのサウンドが劇場の巨大なスピーカーから再生されると、耳だけでなく全身がゲームの音響に包まれているような気分になります。そして底抜けに明るいながらどこかエモーショナルなものを感じさせる(ユーロビートみたいですな)5方向ショット時のメロディが聞こえてくると、思わず目頭に熱いものがこみ上げてきます。

それにしても、5本勝負で勝敗では毛利名人が勝利するが総合得点では高橋名人が上回るという対戦の結果、これは高橋名人に花を持たせる苦しい言い訳というふうにこれまで解釈していたのですが、あらためて戦いを総合的に観察してみると実力は高橋名人のほうが上ではないでしょうか。毛利名人は凡ミスが多かったというのもありますが、ラザロ攻略時の機体の動きの正確さや破壊のスピードなどを見ていると、「技の毛利」「力の高橋」などと言われながら、技もパワー同様に高橋名人のほうが勝っているように思えました。

まぁしかし久しぶりにスターソルジャーの画面を目にすると、これ後ろの面に行けば行くほどけっこうギリギリではないでしょうか。青赤緑にビカビカと光る空中遺跡の中をブァーッと飛んで行くと顔やら目玉やらが飛んできてそれをひねりつぶしていくなんて、表現力の低い当時のゲームだからそれほどドギツくありませんが、たとえばロックミュージシャンがこんなビデオクリップを作ったりしたら「ああ、こいつ絶対キメてるね」と思われるに違いない。

会場入り口に名人のサインそんなわけでチョチョチョチョチョチョと繰り出される超絶連射のサウンドと極彩色の世界にすっかり酔ってしまい、オールナイトの他の作品には目もくれず劇場を後にしてタクシーで帰宅。30分の映画に3000円も払うなんて私もずいぶん成長したものです。学生時代なら終電なくなっても歩いて帰る距離ですしね。

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